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モノ作りの理想とマーケティングの葛藤を描く「表現したい人のためのマンガ入門」しりあがり寿

公開日: : 最終更新日:2016/06/11 コンテンツの生み出し方, 表現したい人のためのマンガ入門

これぞ、まさにコンテンツメーカー読本といえる良書に突き当たりました。ゼロからコンテンツを世に送り出すクリエイティブな人だからこそ、書ける本。こういう隠れた名著にあえるのが乱読(濫読)の楽しみです。

しりあがり寿さんを初めて知ったのは、私が中学生時代に受講していた進研ゼミ(笑)の中に連載されていたギャグマンガです。なかなか常人には表現できない、すごいセンスですが、何より何十年も第一線を走っているのが素晴らしいと思っていました。その頭の中がこんなになっていたなんて、ちょっとした感動を味わいながら読みました。(付箋をつけながら読んだら、付箋だらけになりましたね)

「表現したい人のためのマンガ入門」しりあがり寿

マンガ入門 (講談社現代新書)

コンテンツメーカーを標榜する私にとって、あまりに学びが深かったので、この本の書評は3回に分けたいと思います。まず第一回目は、しりあがり寿さんのきわめて研ぎ澄まされたマーケティングセンス(コンテンツメーカーとしての葛藤をあわせもちながら)についてです。

では、早速いってみましょう。

「売れない」と食えない

News Paper Origami Dragon MonsterNews Paper Origami Dragon Monster / epSos.de

表現するのは誰でもできます。三歳のコドモだってそれなりに絵を描いたり歌を歌ったりします。だけど、人々はその絵をホメはするけど、コドモにお金は払わない。つまり表現で生きていくには、ある程度の人がお金を払うほどには受け入れられなければならない。・・・・たいていの表現を売る人が、この「売れる」というややこしいものと格闘するはめになります。(P11-12)

小説家でも作家でも画家でも写真家でも、ありとあらゆる創作する人の悩みです。必ずしも「売れる」作品が良い「作品」ではありませんが、「売れない」と生活できない。市場が求めているモノ、流行しているモノは必ずしも、自分が理想としているモノではない、でも「売れる」という路線を外すと、それこそ子供の落書きと同じ。

私がアフィリエイトに取り組んで悩み続けたのが、ここです。アフィリエイターではなくコンテンツメーカーと名乗り始めたのも、これが理由です。アフィリエイトは広告業なので、スポンサーの意志に逆らうわけにはいきませんし、最終的には「売る」(紹介する)のが目的の「売文」です。

ところが、それを割り切ることができなければ、いつまでも利益を得ることはできません。以前、アフィリエイトを教えていただいていたことがあります。レントラックス主催の塾だったのですが、主催者のT氏が「女優になりたいという人が、私はこの役しかできない!っていうのはプロではないということ。女優なら若くても老婆の役もできるものだ」というのを思い出すわけです。自分が表現したいものだけではなく、市場に今求められているモノといかに折り合いをつけていくかということが大事なのです。分かってはいるのですが、私もここらへんがどうしても弱いわけです。

しりあがり寿さんは、これを自分の中にいる「ケダモノ」と「調教師」という比喩で表現します。コンテンツメーカーのモノを生み出す原動力ってのは、自分の中にある「ケダモノ」(止めようもない熱源)なのですが、それをいわば「調教」して、なんとか市場に求められているモノと合わせないとならない。

リアルな表現です、本書を通じて一貫した比喩でもあります。

端的に言えば、売れないから、食っていけない。食っていけないと、生計を立てるために、ほかの仕事をしなければならないので結果として、コンテンツ作りに集中はできない。しかし、市場に売れるコンテンツを産みだそうと思えば、自分の中にある真の感情を裏切ることになる。これはモノ作りに生き甲斐を見いだす人にとって、永遠の葛藤だと思いますが、そこで、それを単なる葛藤で終わらせずに、しりあがり寿さんは、この葛藤を「消化し昇華」させている。

マーケティングとは・・・自分が表現して生きていくために、うまくいかない原因はどこにあるのか、無用な悩みを減らし、考え方を整理し、ケダモノにのびのびと暴れてもらうためには必要な知恵かもしれません。(P28-29)

ケダモノと市場の折り合いをつけていく知恵をマーケティングと呼んでいる。

んぐ~~これは深いぞ。

今まで、いろいろ、マーケティングに関する定義を聞いてきたけど、一番、納得がいく定義かもしれないですね。じゃあ、しりあがり寿流のマーケティングとは何か?具体論に入っていきます。

「自分はなんのためにそれを描いているのか」

PRPR / Niuton may

まずなんといっても大切なのは、今自分が描こうとしている作品が何のためにあるのか、という「目的」です。自己表現のために、自分が満足するために描くのか?あるいは他の誰かを満足させるために描くのか?と言うことです。商業的な漫画の場合、多くは他人を満足させるためです。

ではその他人とは誰か?最終的には読書を喜ばすことが目的になるかもしれません。でもその前に必要なのは、発注者を喜ばす、と言うことです。発注者というのは、通常の漫画雑誌などで書店で販売する雑誌の仕事の場合は、編集者でしょう。しかしこれがPSなどになると、広告プロダクションのスタッフなどが発注者になることも多くなります。そして大切なのは、発注者ごとに、作家に仕事を依頼してくる目的が違うことです。(P44-45)

最終的には「読者」が喜ぶマンガを描きたいと思うものです、コンテンツメーカーとしては。しかし、同時に自分も満足したい。しかし、しりあがり寿さんが見ているのは、その単純な二者の葛藤ではありません。そのマンガで利益を得たいと願っている「発注者」の存在です。これを見過ごすと、いつまで経っても稼げないコンテンツしか生み出せないことに気がついているのです。この視点は、分かっているようで、けっこう見過ごしがちな視点だと思うわけです。

PRマンガの場合など「ある商品情報を伝える」「商品に対しての好イメージをつける」「PR誌の中ではしやすめ的にマンガを入れる」など、単にオモシロければいいだけでなく様々な目的が付いてきます。(P45)

では、ある雑誌にマンガを掲載してもらう場合に、最終的にそのマンガがどういう意図で使われるのか。自分のコンテンツに発注者は何を期待しているのか?ここまで考えるわけです。そこを外れると自己満足になってしまう、読者が喜んでも雑誌社の編集者から見ると、使えないと判断されてしまうわけです。これって、私が一番嫌うスポンサーを見ているという状態ではあるのですが、それも欠かせない視点ということです。ビジネスであるなら。紆余曲折を経て、私は今はこのことも理解できます。折り合いをつけなければならないということも。

そして、そこが定まっていないと、コンテンツメーカーとして、コンテンツを作ることで利益を得る人としては失格となってしまうわけです。

この辺、しりあがり寿さんの達観は見事です。

自分が制作過程において迷ったり悩んだりした時、必ず「自分は何のためにそれを描いているのか?」という目的に立ち戻ることが必要になります。その時本来の目的がはっきりしていれば、やるべきことが大きくぶれることありません。(P46)

アマゾンのレビューを見ると、このあたりの知恵が、あざとく見えるようで、「市場に受け入れられるようなコンテンツの作り方は特に知りたくないのだ」というような主張もあるのですが、その考えは、ちょっとポイントを外すと、全く売れず、読者にも喜ばれず、何より、メディアに取り上げてもらえないので露出自体できないと・・売れない、食えない漫画家の愚痴にしかすぎなくなります。結局、家で落書きしているのと同じ、家で妄想しているのと同じになってしまうので、大人なら、なんとかここを折り合いつけていく必要があるんです。

私もアフィリエイトがASPの広告代理店であり、最終的にはASP・広告主を喜ばせることが最善なのだということをだんだん悟るようになりました。もちろん、それがゴールというのは切ないわけですが、そこを通過点にしながら(当然理解するポイントとしながら)いかに自分だけが表現できる世界をアピールするかという「企み」を働かせることができるようになったわけです(まだまだ成果はついてきませんが)

マーケティング書籍なんかを見ると、この辺は当然語られることなのですが、私としてはしりあがり寿さんのように個性の強い・・普通は受け入れらない画風・作品が、こんなにもロングランでヒットし続けている理由が、この「マーケティング」にあるということを知って驚愕したのです。ちなみに、私はしりあがり寿さんの絵は、個人的にとてもツボです(父や母はとても嫌いだと思われますが)好き嫌い分かれますよねw、私は学生時代に、やはりシュールなナンセンス漫画の吉田戦車のマンガをまとめて捨てられたことがあります。

ま~そんな偽善とか売れなきゃとか、建前とか、飛び交っていく「大人な世界」の中でも、自分の願うオモシロさをいかに世に問うていけるのか、ここに美学を感じるわけです。単純に、ドンキ・ホーテじゃないわけです、大人は。

オモシロさに忠実に生きる

でも結局のところ、その中に「怪しさ」「危うさ」を含みながらも、ひとりひとりの人間が真剣に考えた、「良かれ」や「オモシロイ」に忠実にモノを作るしかないような気がします。結局それが全体として人間の能力を最もよく引き出す方法で、それがダメなら人類そのものがダメな気もします。そこで自分に忠実にでなく、読者の欲望に合わせすぎると、つまりみんながみんなモノを各人がそんなことやり始めたら、ヤバイんじゃないかなー、やっぱり。だからたくさんの人が(10人に1人でいいけれど)自分の考えをできるだけ取り済まして、その人なりの「良い」にこだわってモノを書いたほうがいいのに、と思います。

例えば自分の子供だったら、いくら「甘いものが欲しい」といっても、野菜を食べさせるでしょう。それは子供を愛してるからです。丈夫に育ってほしいからです。企業は消費者をそんなふうには見ません。消費者が欲しいと言ったら、体に毒とかは別にして、何でも売ります。長期的に消費者のためならないか?・・・・なんて言ってすぐ売れる商品をひっこめたりしません。(P210-211)

マーケティング的に深い考察をしたあげく、しりあがり寿さんは、こう言い放っちゃうわけです。結局は自分の「オモシロさ」で引っ張るんだぜって。これは成功した今になって初めて言えることなのかな?っと思うわけですが、最終的にたどりついた結論の深さにモノ作りの同業者としては感動しちゃって落涙しちゃうわけです。

コンテンツ作りに励む人なら、やっぱ最終的にはこの結論が分かるわけです。

ちょっと話はそれますが・・・

以前に、スガシカオのインタビューを見ていたことがあって、彼の作詞する歌は、ちょっと常人がひいちゃうくらいドロドロした内面の葛藤だったり、人の汚さだったり描き出しているわけですよね。でも、こんな詞は普通は受け入れられないです。そんなものは、当然、公衆の目の前に並べられるコンテンツじゃないわけです、つまり「売れない」と。ただ、彼は稀代のメロディーメーカーでもあります、その一瞬大の大人をひるませるような詞に、甘い口ずさむようなメロディーをつけて、大衆に受け入れられ、同時に歌わせることに成功したのです。

たぶん「甘い果実」リリースの時とかだったと思う。

実は、これ(市場に受け入れられるようにしながら、最終的には自分のやりたいことをやっている)を意識的にやっていると。これを聞いたときにしばらく、私はスガシカオが大嫌いになりました。なんて、あざといんだと。この頃は私も、若かったのですが・・。

ミュージシャンの口からマーケティングっぽい話を聞きたくはなかった。

しかし今考えると、メロディーの甘さという魅力で市場をつかみつつ、比喩を使いながらも自分の世界観が随所に表れた「詞」を市場に押し込んでいったスガシカオってすごいなと思うわけです。最終的には、自分の世界観でフォロワーを引っ張っているわけです。市場に合わせるようにして、自分を折れているようでありながら、実は虎視眈々と自分の世界観で市場を作ることをあきらめていなかったわけです。

*今はあまりスガシカオさんは好んで聴かないのですが(というかJ-POP自体きかなくなりました)

まあ、スガシカオとしりあがり寿さんの共通点といえば、それぞれサラリーマンで、最初からモノ作り(アーティスト)として成功した人ではなかったということで。サラリーマン生活をしながら現実の重みをしっかり知りながら、自分を市場に合わせ、同時に市場を自分に合わせていく知恵(マーケティング)を学び取った大人であるということです。

んで、いったんまとめますが・・。

私が専門にしているサイト・ブログ作りの視点でいえば、いかに市場に受け入れられるかという視点も絶対に欠かせない、ただそれはきっかけにすぎず、そこを利用しながら、いかに自己実現的なコンテンツを世に生み出し続けるか。それをずっと続けるくらいまで支持されていけるのか・・というコンテンツメーカーとしてのつきない悩みへの解決策が、ひとつここにあるなって感じるのです。

コンテンツを生み出しつつ、市場に飲まれたくない!という
少しひねくれた「モノ作り人」には「超」がつく、おすすめの良書です。

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